まして、大勢の人々が、新らしい野菜や果物を、忙しそうに売ったり、買ったり、運んだりしています。そこへどう迷ったものか、白髪小僧が遣って来ましたが、見るとこの間の通り顔は焼け爛《ただ》れて、眼も鼻もわからず、身には汚い衣服《きもの》を着て、鈴や月琴を一纏めにして首にかけ、左手には孔《あな》の無い笛を持ち、右手には字の書いてない書物を持っておりました。その姿が珍らしいので、あとから大勢の小供が従《つ》いて来て、石や泥を雨のように投げ附けていますが、白髪小僧は痛くも何ともない様子で、平生《いつも》のようにニコニコ笑いながら、ぼんやり突立って逃げようともせぬ様子です。するとそこへ又一人、手足から顔まで襤褄《ぼろ》で包んだ男が出て来まして、白髪小僧の様子を見て気の毒に思いましたものか、小供を四方に追い散らして白髪小僧の傍へ寄って、手を引いてどこかへ連れて行こうとする様子でしたが、その時どうした途端《はずみ》か顔を包んでいた布《きれ》が取れると、これが彼《か》の半腐れの香潮で、集まっている者は皆その顔付の恐ろしさに、大人も小供も肝を潰して、散り散りに逃げ失せてしまいました。
その間に香潮と白髪小
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