みべに》姫の姿が朦朧《ぼんやり》と現われましたが、見ると今美紅姫は自分の室《へや》に閉じ籠もって、机の上に頬杖を突いて窓の外を見ながら何か恍惚《うっとり》と考えているところでした。この時赤鸚鵡は一声高く叫びました――
「王様。王様。御覧遊ばせ。
美紅の姿。美紅の姿。
紅木の娘。美紅の姿」
王はこれを聞くと莞爾《にっこ》と笑いまして――
「ハハア。これが美紅姫か。成る程、これは美しい利口そうな娘だ」
と申しましたが、その中《うち》に鏡の中の美紅姫がこの方《ほう》を向いて、王の顔をじっと見たと思うと、美紅の室《へや》も机も着ている着物も消え失せてしまって、あとに残った美紅の姿はそっくりそのまま、海の中の藻の林で、美留藻が鏡を覗いているところになりました。この時赤鸚鵡は又も一声高く叫びました――
「王様。王様。御覧遊ばせ。
美留藻の姿。美留藻の姿。
藻取の娘。美留藻の姿」
美留藻は鏡の中から王の姿を見て莞爾《にっこり》と笑いましたが、王もこれを見て莞爾《にっこり》と笑いまして――
「オオ。これが美留藻の姿か。成る程。美紅姫と少しも違わぬわ。してこの美留藻の許嫁となっていた、香潮
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