なりましたが、濡れたままの手でいきなりしっかりと女の児を抱きしめて、
「まあ、お前はどうしてそんなによい子になったの」
 と云いながら、涙をハラハラとお流しになりました。
 白椿のちえ子さんは身を震わしてこの様子を見ておりました。ちえ子さんもお母さまからこんなにして可愛がられた事は今まで一度も無かったのです。あんまり羨ましくて情なくて口惜《くちお》しくて、思わずホロホロと水晶のような露を机の上に落しました。
 それからこの女の児がする事は、何一つとしてちえ子さんを感心させない事はありませんでした。
 遊びに誘いに来るわるいお友達はみんな、お母様にたのんで断って頂いて、よいお友達と遊ぶようにしました。
「ちえ子のちえ子の大馬鹿やい。ちえ子の知恵無し落第坊主、一年二度ずつエンヤラヤ、学校出るのに……ツーツータアカアセ」
 と悪い男の生徒がはやしても、家の中《うち》から笑っていました。
 そのほか勉強のひまには編物をお母さんから習いました。夜はお祖父さまの肩をもみました。お母様のお使い、お父様の御用向でも、ハイハイとはたらきました。そうして自分の事は何一つお母様やお祖母様に御迷惑をかけません
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