白椿
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)叱られる毎《ごと》に

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)位|極《きま》りが
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 ちえ子さんは可愛らしい奇麗な児でしたが、勉強がきらいで遊んでばかりいるので、学校を何べんも落第しました。そしてお父さんやお母さんに叱られる毎《ごと》に、「ああ、嫌だ嫌だ。どうかして勉強しないで学校がよく出来る工夫は無いかしらん」と、そればかり考えておりました。
 ある日、どうしてもしなくてはならぬ算術をやっておりましたが、どうしてもわからぬ上にねむくてたまりませんので、大きなあくびを一つしてお庭に出てみると、白い寒椿がたった一つ蕾《つぼみ》を開いておりました。ちえ子さんはそれを見ると、「ああ、こんな花になったらいいだろう。学校にも何にも行かずに、花が咲いて人から可愛がられる。ああ、花になりたい」と思いながら、その花に顔を近づけて香《にお》いを嗅《か》いでみました。
 その白椿の香気のいい事、眼も眩《くら》むようでした。思わず噎《む》せ返って、
「ハックシン」
 と大きなくしゃみを一つして、フッと眼を開いて
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