面には違った答えばかりで、処々にはつまらない絵なぞが書いてあります。女の児はそれをゴムで奇麗に消して、間違った答えをみんな直して、明日《あす》の宿題までも済ましてしまいました。それを見ているうちにちえ子さんは、算術のしかたがだんだんわかって来て面白くて堪らず、自分でやってみたくなりましたが、花になっているのですから仕方がありません。
そのうちに女の児は算術を済まして、読本を開いて、本に小さく鉛筆でつけてある仮名を皆消してしまいました。おさらいと明日《あす》の下読が済むと、筆入やカバンを奇麗に掃除して、鉛筆を上手に削って、時間表に合せた書物や雑記帳と一所に入れて机の上に正しく置きました。それから机の抽斗《ひきだし》をあけてキチンと片づけて、押しこんだいたずら書きの紙屑や糸くずをちゃんと展《の》ばして、紙は帳面に作り、糸は糸巻きに巻きました。その間のちえ子さんの極りのわるさ! 消えてしまいたい位でした。
女の児はそれから、台所で働いていらっしゃるお母様の処へ走って行って、手を突いて、
「お母さん、お手伝いさせて頂戴」
と云いました。
お母様はしばらくだまって女の児の顔を見ておいでに
前へ
次へ
全7ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング