から2字下げ]
のこる怨み白くれなゐの花盛り
あまたの人をきりしたん寺
寛永六年五月吉日
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]鬼三郎しるす
× × ×
それから十四五日経ってから例の古道具屋の貫七|爺《じい》が又遣って来た。骨だらけの身体《からだ》に糊の利いた浴衣、絽《ろ》の羽織を引っかけて扇をパチパチいわせている姿は如何にも涼しそうである。
私は夏肥りに倦《たる》み切った身体《からだ》を扇風器に預けていた。
「あの白い花の正体がおわかりになりましたでしょうか」
「ウン。わかったよ。九大農学部に僕の友人が居ると云ったね」
「ヘエヘエ。たしか加藤博士様とか」
「馬鹿。そんな事云やしないぜ。第一博士じゃない。富士川といって普通の学士だがね。所謂万年学士という奴だ。植物の名前なら知らないものはないという」
「ヘイ。エライもので御座いますな」
「そいつにあの花を送って調べさしてやったら、いくら研究しても隠元豆に相違ないと云うんだ」
「ヘエッ。どちらが隠元豆なんで……」
「どっちも隠元豆なんだ」
「テヘッ。飛んだ変幻豆で
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