》ひて、威丈高《ゐたけだか》にわれを見下したる眼光、鬼神も縮み上る可き勢なり。
されども、われ些しも驚きたる頗色《けしき》をあらはさず。莞爾として笑み返しつ。如何にも驚き入つたる御眼力。多分お上より触れまはされし人相書を御覧《ごらう》じたるものなるべし。半面の鬼相包むべくもあらず。如何にも吾こそは片面鬼三郎と呼ばるゝ日本一の無調法者に候。さりながら、われ長崎に居りたる甲斐に、唐人の秘法を習ひ覚え、家相を見るに妙を得たり。すなはち此の寺の相を観《み》るに、是《こ》れまことの天台宗の寺に非ず。本尊は聖母マリアにして羅漢は皆十二使徒なり。美しき稚児《ちご》を養ひて天使に擬《なぞら》ふる御辺の御容体は羅馬《ローマン》加特里克《カトリク》か、善主以登《ゼスイト》か。いづれにしても禁断の邪教、切支丹《キリシタン》婆天蓮《バテレン》の輩《ともがら》に相違あるまじと云ひ放つ。その言葉の終らぬうちに和尚の血相忽然として一変し、一間ばかり飛び退《しさ》りて、懐中《ふところ》に手を入れしと見る間に、金象眼したる種子島《たねがしま》の懐中《ふところ》鉄砲を取出し、わが胸のあたりに狙ひを付くる。しかも眼を定め
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