教へは受けませぬ。タツタ一人……タツタ一人の母様《かゝしやま》の御病気を治療《ような》し度いばつかりに、身を売りましたのが仇になつて……そこにお出でになる御役人|衆《しゆ》のお言葉に靡きませなんだばつかりに……かやうに日の本の恥を、外《と》つ国《くに》までも晒すやうな……不忠、不孝なわたくし……」
苦痛の為にかありけむ。初花の言葉は此処にて切れ/″\に乱れ途切れぬ。
石の如くなりて聞き居りし役人|輩《ども》は此時、俄かに周章狼狽し初めたるが、そが中にも、罪状を読み上げたりし陣羽織の一人は、采配持つ手もわなゝきつゝ立上り、
「それ非人|輩《ども》……先づ其の女から」
と指図すれば「あつ」と答へし憎くさげなる非人二人、初花の磔刑柱《はりつけばしら》の下に走り寄り、槍を打ち合はする暇もなく白無垢の両の脇下より、すぶり/\と刺し貫けば鮮血さつと迸り流るゝ様、見る眼も眩《くら》めくばかり、力余りし槍の穂先は両肩より白く輝き抜け出でぬ。
あはれ初花は全く身に大波を打たせ、乱髪を逆立《さかだ》たせ渦巻かする大苦悶、大叫喚のうちに、
「……母《かゝ》しやま……済みませぬツ」
と云ふ。その言葉
前へ
次へ
全60ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング