の生胆なりとて、約束の黄金三枚を与へしのみかは、香煙、美酒、美肴に加ふるに又も天女の如き唐美人の数人を饗応《もてな》し与へぬ。その歓待《もてなし》、昨日にも増り(以下原文十行抹殺)。
 かくて年月を経《ふ》るうちに鉄の如くなりしわが腕の筋も、連日連夜の遊楽に疲れけむ。やう/\に弱り行く心地しつ。されども彼《か》の香烟の酔ひ醒めの心地狂ほしさはなか/\に切先《きつさき》の冴え昔に増《まさ》る心地して、血に餓うるとは是をや云ふらむ。毎日正午ともなれば人一人斬らでは止み難く、斬れば早や香煙に酔ひたる心地して、南蛮寺下の花畑に走り行く。心は現世の鬼畜、悪魔、外道に弥増《いやまさ》るやらむ。身は此世ならぬ極楽夢幻の楽しみ。阿羅岐《あらき》の蘇古珍《スコチン》酒、裸形《らぎやう》の妖女に溺れつくして狂乱、泥迷に昼夜を頒《わか》たねば、使ふに由なき黄金は徒らに積り積るのみ。すなはち人知れず稲佐の大文字山に登り行き、只《と》有る山蔭の大岩の下に埋め置きつ。早や数百金にもなりつらむと思ふ頃、その中より数枚を取り出し、丸山の妓楼に上り、心利きたる幇間に頼みて、彼《か》の香煙の器械一具と薬の数箱を価貴《たか
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