「イキナリ飛び付きやがって、ここん処《とこ》をコレ……コンナに喰《く》い切りやがったんで……」
 兼は菜葉服《なっぱふく》とメリヤスの襯衣《シャツ》をまくって、左腕の力瘤《ちからこぶ》の上の繃帯《ほうたい》を出して見せた。
「まだ腫《は》れてんで……ズキズキしてるんですがね……恐ろしいもんですね」
「間抜けめえ。そん時に手前《てめえ》裸体《はだか》だったのか」
「エヘヘヘヘヘ」
「変な笑い方をしるねえ。それからどうした」
「わっしゃカーッとなっちゃってね。コイツ奴《め》、降りるといったって他の船へ乗れあ、又、災難《わざ》をしやがるんだからここで片付けた方が早道だ。男だか女だか殺《おと》してから検査《しらべ》た方が早道だと思っちゃったところへ、血だらけの口をしたS・O・Sの野郎が、私の横ッ面《つら》へ喰い切った肉をパッと吹っかけて「悪魔」とか何とか悪態を吐《つ》きやがったんで……手前《てめえ》の悪魔は棚へ上げやがってね。……おまけに後で船長《おとっさん》に告訴《いいつ》けてやるから……とか何とか吐《ぬ》かしやがったんでイヨイヨ助けておけないと思って、首ッ玉をギューッと……まったくなん
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