で……ヘエ……」
「非道《ひど》い事をするなあ。そんで女だったかい」
「……それがその……野郎なんで……」
「プッ。馬鹿だなあ。それからどうしたい」
「それっきりでさ。……ウンザリしちゃって放《ほ》ったらかして来ちゃったんです」
「何故《なぜ》海に投《ほう》り込まねえ」
「それが誰にも見つからねえように放り込みたかったんで……親方や機関室《ダンブロ》の兄貴《あにき》達にも申し訳ねえし、おまけに上海《シャンハイ》で、あっしが談判に行った時に船長《おやじ》が入歯をガチガチさして、こんな事を云ったんです。あの小僧をタタキ殺すのに文句はないが……」
「チョット待ってくれ。たたき殺すのに文句はないって云ったんだね」
「そうなんで……しかし死骸は勿論、髪の毛一本でも外へ持ち出したら只《ただ》はおかないぞッ……てね。そう云って船長《おやじ》に白眼《にら》み付けられた時にゃ、あっしゃゾッとしましたぜ。あんな気味の悪い面《つら》ア初めてお眼にかかったんで……ヘエ……まったくなんで……」
「フーム。妙な事を云ったもんだな」
「そう云ったんで……何だかわからねえけども……万一見付かって首になっちゃ詰まらねえ
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