難船小僧
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)船長《おやじ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)両|肱《ひじ》を
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)三りんぼう[#「三りんぼう」に傍点]扱いに
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船長《おやじ》の横顔をジッと見ていると、だんだん人間らしい感じがなくなって来るんだ。骸骨を渋紙《しぶがみ》で貼り固めてワニスで塗上げたような黒いガッチリした凸額《おでこ》の下に、硝子球《ガラスだま》じみたギョロギョロする眼玉が二つコビリ付いている。マドロス煙管《パイプ》をギュウと引啣《ひっくわ》えた横一文字の口が、旧式軍艦の衝角《しょうかく》みたいな巨大《おおき》な顎《あご》と一所《いっしょ》に、鋼鉄の噛締機《バイト》そっくりの頑固な根性を露出《むきだ》している。それが船橋《ブリッジ》の欄干《クロス》に両|肱《ひじ》を凭《も》たせて、青い青い秋空の下に横たわる陸地《おか》の方を凝視《みつ》めているのだ。
そのギロリと固定した視線の一直線上に、巨大な百貨店らしい建物の赤い旗がフラフラ動いている。その周囲に
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