こり》を下検分《したみ》に廻わった二等機関士のチャプリン髭《ひげ》が、俺の部屋へ転がり込んで来た。
「……タ……大変です。S・O・Sの死骸が見つかりました」
「ナニ。S・O・S……伊那の死骸がか……」
「エエ。そうなんです……ああ驚いた。ちょっとその水を一パイ。ああたまらねえ」
「サア飲め。意気地無し。どこに在ったんだ」
「ああ驚いちゃった。料理部屋の背面《うしろ》なんです。あすこの石炭《すみ》の山の上にエムプレス・チャイナの青い金モール服を着たまんま半腐りの骸骨になって寝ていたんです。イガ栗頭の恰好《かっこう》があいつに違いないんですが」
「骸骨……?……」
「ええ。あそこは鉄管《パイプ》がゴチャゴチャしていてステキに暑いもんですから腐りが早かったんでしょう。白い歯を一パイに剥《む》き出してね。蛆《うじ》一匹居なかったんですが……随分臭かったんですよ」
俺は黙って鉄梯子《てつばしご》を昇って、中甲板《ちゅうかんぱん》の水夫部屋に来た。入口に掴《つか》まって仁王立《におうだ》ちになったまま大声で怒鳴った。
「おおい。兼公《かねこう》居るかア。出歯《でっぱ》の兼公……生首《なまくび》の
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