日分……」
「……ヨシ……」
 ガチャリと電話が切れたと思うと、やがて船腹《ふなばら》を震撼《しんかん》する波濤《なみ》の轟音《おと》が急に高まって来た。タッタ二|節《ノット》の違いでも波が倍以上大きくなったような気がする。又実際、船体のコタエ方は倍以上違って来るので、石炭の消費量でもチットやソットの違いじゃない。
 そのうちに高緯度の癖で、いつとなく日ばボンヤリと暮れて、地獄座のフットライト見たいなオーロラがダラダラと船尾《スターン》にブラ下った。その下の波の大山脈の重なりを、夜通しがかりで白泡《しらあわ》を噛《か》みながら昇ったり降ったり、シーソーを繰り返して翌《あく》る朝の薄明りになってみると、不思議な事に船体《ふね》は、昨日《きのう》の朝の通り聖《セント》エリアスとフェア・ウェザーの中間に船首を固定さしている。昨日《きのう》から固定していたんだか、夜の間に逆戻りしたんだかわからない。
「どうしたんだ」
「シッカリしろ」
 とか何とか運転手と文句を云い合っているうちに、昨日《きのう》の朝の通りの白い太陽がギラギラと出て来た。空気が乾燥しているから岸の形がハッキリしている。山腹を這
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