に船長室を覗《のぞ》いたらシッカリ抱き合って寝てたっていうぜ」
「ゲエッ。ホントウけえ」
「……真実《まったく》だよ……まだ驚く話があるんだ。主厨《カカン》の話だがね、あのS・O・S小僧ってな女だっていうぜ。……おめえ川島|芳子《よしこ》ッてえ女知らねえか」
「知らねえね。○○女優だろう」
「ウン……あんな女だっていうぜ。毛唐《けとう》の船長なんか、よくそんな女をボーイに仕立てて飼ってるって話だぜ。寝台《ねだい》の下の箱に入れとくんだそうだ。自分の喰物《くいもの》を領《わ》けてね」
「フウン。そういえば理窟がわかるような気もする。女ならS・O・Sに違《ちげ》えねえ」
「だからよ。この船の船霊様《ふなだまさま》ア、もうトックの昔に腐っちゃってるんだ」
「ああ嫌《いや》だ嫌だ。俺《おら》アゾオッとしちゃった」
「だからよ。船員《みんな》は小僧を見付《みつけ》次第タタキ殺して船霊様《ふなだまさま》を浄《きよ》めるって云ってんだ。汽鑵《かま》へブチ込めやあ五分間で灰も残らねえってんだ」
「おやじの量見が知れねえな」
「ナアニヨ。S・O・Sなんて迷信だって機関長に云ってんだそうだ。俺の計算に、迷
前へ
次へ
全53ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング