信が這入《はい》ってると思うかって機関長に喰《く》ってかかったんだそうだ」
「機関長は何と云った」
「ヘエエッて引き退《さが》って来たんだそうだ」
「ダラシがねえな。みんなと一所に船を降りちまうぞって威《おど》かしゃあいいのに」
「駄目だよ。ウチの船長《おやじ》は会社の宝物《ほうもつ》だからな。チットぐれえの気紛《きまぐれ》なら会社の方で大目に見るにきまっている。船員《のりくみ》だって船長《おやじ》が桟橋に立って片手を揚げれや百や二百は集まって来るんだ」
「それあそうかも知れねえ」
「だからよ。晩香坡《バンクーバ》に着いてっからS・O・Sの女郎《めろう》をヒョッコリ甲板《デッキ》に立たせて、ドンナもんだい。無事に着いたじゃねえかってんで、コチトラを初め、今まで怖がっていた毛唐連中をギャフンと喰《く》らわせようって心算《つもり》じゃねえかよ」
「フウン。タチがよくねえな。事によりけりだ。コチトラ生命《いのち》がけじゃねえか」
「まったくだよ。船長《おやじ》はソンナ事が好きなんだからな」
「機関長も船長《おやじ》にはペコペコだからな」
「ウムウム。この塩梅《あんばい》じゃどこへ持ってかれる
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