》には皆|生汗《なまあせ》が滲《にじ》んだ。
「あぶねえあぶねえ。冗談じゃねえ。汽笛《ふえ》を鳴らさねえもんだから反響がわからねえんだ。だから陸《おか》に近いのが知れなかったんだ」
「機関長の奴ヤタラにスチームを惜しみやがるもんだからな……テキメンだ」
「今の島はどこだったろう」
「セント・ジョジじゃねえかな」
「……手前《てめえ》……行ったことあんのか」
「ウン。飛行機を拾いに行った事がある」
「何だ何だセント・ジョジだって……」
「ウン。間違《まちげ》えねえと思う。波打際《なみうちぎわ》の恰好《かっこう》に見おぼえがあるんだ」
「篦棒《べらぼう》めえ。セント・ジョジったらアリュウシャン群島の奥じゃねえか」
「ウン。船が霧ん中でアリュウシャンを突《つ》ん抜けて白令海《ベーリング》へ這入《はい》っちゃったんだ」
「間抜けめえ。船長《おやじ》がソンナ半間《はんま》な処へ船を遣《や》るもんけえ」
「駄目だよ。船長《おやじ》にはもうケチが附いてんだよ。S・O・S小僧に祟《たた》られてんだ」
「でも小僧はモウ居ねえってんじゃねえか」
「居るともよ。船長《おやじ》がどこかに隠してやがるんだ。夜中
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