」
「サア……わからねえ。太陽も星もねえんだかんな。六分儀なんかまるで役に立たねえそうだ」
「どこいらだろうな」
「……サア……どこいらだろうな」
コンナ会話が交換されているところへ、老人の主厨《しゅちゅう》が飼っている斑《まだら》のフォックステリヤが、甲板に馳《か》け上って来ると突然に船首の方を向いてピッタリと立停《たちど》まった。クフンクフンと空中を嗅《か》ぎ出した。同時にワンワンワンワンと火の附くように吠《ほ》え初めた。
「オイ。陸《おか》だ陸だッ」
とアトから跟《つ》いて来た主厨の禿頭《はげあたま》が叫ぶ。成る程、波の形が変化して、眼の前にボーッと島の影が接近している。
「ウワッ……陸《おか》だッ……大変だッ」
「後退《ゴスタン》……ゴスタン……陸《おか》だ陸だッ」
「大変だ大変だ。ぶつかるぞッ……」
ワアワアワアワアと蜂《はち》の巣を突《つつ》いたような騒ぎの中《うち》に、船は忽《たちま》ちゴースタンして七千|噸《トン》の惰力をヤット喰止《くいと》めながら沖へ離れた。船首にグングンのしかかって来る断崖《だんがい》絶壁の姿を間一髪の瀬戸際まで見せ付けられた連中の額《ひたい
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