アタマだよ。
そうした一種の鬼気《すごみ》を含んだ船長の顔と、部屋の隅でバナナを切っている伊那少年の横顔を見比《みくら》べると、まるで北極と南洋ほど感じが違う。
毬栗《いがぐり》の丸い恰好《かっこう》のいい頭が、若い比丘尼《びくに》みたいに青々としている。皮膚の色は近頃流行のオリーブって奴だろう。眼の縁《ふち》と頬《ほお》がホンノリして唇が苺《いちご》みたいだ。睫毛《まつげ》の濃い、張りのある二重瞼《ふたえまぶた》、青々と長い三日月|眉《まゆ》、スッキリした白い鼻筋、紅《あか》い耳朶《みみたぼ》の背後《うしろ》から肩へ流れるキャベツ色の襟筋《えりすじ》が、女のように色っぽいんだ。青地に金モールの給仕服《ユニフォーム》が身体《からだ》にピッタリと吸付《すいつ》いているが、振袖《ふりそで》を着せたら、お化粧をしなくとも坊主頭のまんま、生娘《きむすめ》に見えるだろう。なるほど毛唐《けとう》が抱いてみたがる筈だ……と思っているトタンに、白いバナナの皿を捧げた小僧がクルリとこっち向きになって頭を一つ下げた。俺の顔を、憐《あわ》れみを乞《こ》うようにソッと見上げた。それから恋人に出会った少女み
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