学博士の学位を取っている一種の発明狂と来ているんだ。持っているパテントの数《すう》でも十や二十じゃ利かないだろう。みんなこの実験室でヒネリ出したっていうんだから豪勢なもんだろう。去年の冬だっけが、そんなパテントの権利も、巨万の財産も海員|擁済会《ようさいかい》に寄附して、胃癌《いがん》で死んじゃったが、惜しい人間だったよ。……その時分……昭和二年頃には、小型な、軽い、無尽蔵に強力な乾蓄電池の製作に夢中になっていたっけ。世界中の動力を蓄電池の一点張りにするてんで、誠に結構な話だが、その実験をするたんびに、船中の電動力を吸い集めて、電燈を薄暗くしちまったりヒューズを飛ばしたりするのには降参させられたよ。おまけに舶来の絹巻線《きぬまきせん》が気に入らないと云って、自分で器械を作って絹巻線を製作しては切り棄《す》て、作っては切り棄てる事二万|哩《マイル》。その仕事に行き詰まると、今のピストルを二挺持って上甲板《じょうかんぱん》に駈《か》け上る。主檣《メーンマスト》に群がる軍艦鳥を両手でパンパンと狙《ねら》い撃《うち》にして「アハハハハ」と高笑いしながら、落ちて来るのを見向きもしないでスタスタと
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