ン》へ持って行《い》て蒸留水で入れちくれい。地獄の親方と一所に飲むけにナ」
「CAPTAIN」と真鍮札《しんちゅうふだ》を打った扉《ドア》を開くと強烈な酸類、アルカリ類、オゾン、アルコオルの異臭《におい》がムラムラと顔を撲《う》つ。その中に厚硝子張《あつガラスばり》、樫材《オークざい》の固定薬品棚、書類、ビーカー、レトルト、精巧な金工器具、銅板、鉛板、亜鉛板、各種の針金、酸水素|瓦斯《ガス》筒、電気|鎔接《ようせつ》機、天秤《てんびん》、バロメータなんぞが歯医者か理髪店の片隅みたいにゴチャゴチャと重なり合っている……というのがこのアラスカ丸の船長室なんだ。その片隅の八日《ようか》巻の時計の下の折釘《おれくぎ》に、墨西哥《メキシコ》かケンタッキーの山奥あたりにしかないようなスバらしく長い、物凄《ものすご》い銀色の拳銃が二|挺《ちょう》、十数発の実弾を頬張《ほおば》ったまま並んで引っかかっているのだ。
話は脱線するがこのアラスカ丸の船長はむろん独身生活者《ひとりもの》で、女も酒も嫌いなんだ。上陸なんか滅多《めった》にしないんだ。その代りに応用化学の本家本元の仏蘭西《フランス》の大学で、理
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