ているんですがね」
「現在《いま》でもそうかね」
「……………」
「そんなら……宜《え》えじゃろ。中学生にでもわかる話じゃろ。あのS・O・S小僧が颱風《たいふう》や、竜巻《スパウト》や、暗礁《リーフ》をこの船の前途《コース》に招寄《よびよ》せる魔力を持っちょる事が、合理的に証明出来るチウならタッタ今でもあの小僧を降す」
「……………」
「元来、物理、化学で固まった地球の表面を、物理、化学で固めた船で走るんじゃろ。それが信じられん奴は……君や僕が運用する数理計算が当てにならんナンテいう奴は、最初《はな》から船に乗らんが宜《え》え」
 俺はギューと参ってしまった。一言《いちごん》ない……面目《めんぼく》ない……と思って残念ながら頭を下げた。
「ムフムフ。シッカリし給《たま》え。オイオイ伊那一郎……S・O・S……ハハハ。ここだここだ……上《あが》っち来い」
 船長《おやじ》を探すらしく巨大なバナナを抱えて船長室を駈出《かけだ》して行く青服の少年《こども》を船長《おやじ》は手招きして呼び上げた。俺が買って来た西蔵《チベット》紅茶の箱を、鼻の先に突付《つきつ》けて命令した。
「これを船長室《ケビ
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