を私の顔の真正面《ましょうめん》に吹き付けた。
「……迷信だよ……」
「それあそうでしょうけどね。迷信は迷信でしょうけどね」
「ムフムフ。ナンセン小僧をノンセンス小僧に切り変えるんだ。迷信が勝つか。俺達の動かす器械が勝つかだ」
「つまり一種の実験ですね」
「……ムフムフ。ノンセンスの実験だよ」
「……………」
二人の間に鉄壁のような沈黙が続いた。船長は平気でコバルト色の煙をプカプカやり出した。俺は、どうしたらこの船長を説き伏せる事が出来るかと考え続けた。
「君はいつからこの船に乗ったっけなあ」
と船長が突然に妙な事を云い出した。
「一昨年の今頃でしたっけなあ」
「乗る時に機械は検査したろうな」
「しましたよ。推進機《スクリュウ》の切端《きっぱし》まで鉄槌《ハマ》でぶん殴ってみましたよ。それがどうかしたんですか」
「ムフムフ。その時に機械の間に、迷信とか、超科学の力とか、幽霊とか、妖怪《ばけもん》とか、理外の理とかいうものが挟まったり、引っかかったりしているのを発見したかね。君が検査した時に……」
「それあ……そんな事はありません。この船の機械は全部近代科学の理論一点張りで出来て動い
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