は決して乾上《ひあが》りなんかする気色はない。新聞の三面記事が読める人なら必ず本格の探偵小説を理解し得ると考えてもいい位の大衆的な支持を受けつつ堂々と門を張って行きつつ在る。本格以外の探偵小説は探偵小説に非ず。エロ小説、グロ小説、ナンセンス小説と名乗って、この魅力ある「探偵」の二字を僭称する事を遠慮すべきもの也……とか何とか大見得を切られても、大きな声で返事する者が居ない位すばらしい勢である。だからこの定義は所謂、変格の探偵小説には当てはまるが、本格の謎々専門のソレには当てはまらないらしい。

 ……ナアニ……探偵小説ってものは大人のお伽話に過ぎないんだよ。大人は探偵小説を読んでオカカの感心、オビビのビックリ世界に逃避したがっているんだよ。良心とか、義理とか、人情とか、生活の苦しみとか、いうものには毎日毎日飽き飽きするくらい触れているんだから、そんなものにモウ一度シミジミと触れさせる普通の小説なんか、御免蒙りたいのだ。そんなものを超越した痛快な、ものすごいすばらしい世界へ連れて行ってもらいたがっているんだ。
 但《ただし》、子供はビックリ太郎でもノラクロ伍長でも容易に釣込まれるんだが、
前へ 次へ
全9ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング