探偵小説の正体
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)如何《いか》に

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)古|屑籠《くずかご》の蓋を
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 探偵小説はジフテリヤの血清に似ている。ジフテリヤの血清をジフテリヤ患者に注射するとステキに利く。百発百中と云ってもいい位おそろしい効果を以て、ジフテリヤの病源体をヤッツケてしまうらしい。
 それでいてジフテリヤの病源体はまだ発見されていない。近代医学の威力を以てしても正体が掴めないでいる。つまり薬の方が先に発見されているのに、病気の正体の方が判明しないので、裁判が確定しているのに、犯人が捕まらないみたいな恰好になっている。一種のナンセンスと云えば云える状態である。
 探偵小説の正体も同様である。
 探偵小説を欲求する心理の正体を掴むことその事が既に一つのこの上もないナンセンスであり、ユーモアであり、冒険であり、怪奇であり、神秘であり……何かみたいである。
 探偵小説の正体を探偵するとはこれ如何《いか》にである。

 事実……探偵小説の興味の本体がどこに在るかを探り出すことは中々容易でないらしい
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