大人はそうは行かない。だから科学とか、実社会の機構とか、専門の智識とかの中でも、最新、最鋭の驚異的な奴を背景、もしくは材料として「感心世界」や「ビックリ世界」を組立てなければならない。そこから探偵小説のすべてが生まれて来るのだ。そうしてソレ以外にも以上にも探偵小説の使命はないのだ。
 ルパンでもホルムズでも要するに大人のミッキーマウスであり凸凹黒兵衛に外ならないんだよ。そいつが人の欲しがる巨万の富、人の惜しがる生命《いのち》、もしくは最も人の昂奮する国際問題なぞに対して行われた奸悪を向うにまわして超人的な活躍をするんだから、大人が喜ぶ筈だよ。怪奇、変態、冒険、ユーモア、なんていう色々な要素が、探偵小説の中に取入れられているのは、単に大人を、小供のお伽話と同等にビックリさせる色どりに外ならないんだよ……云々……と……。

 成る程そう云われてみると、そんな気にもなって来る。大人はお伽話を持ち得ない、憐れな動物だから、子供がお伽話を聞いて眠りたがるように、大人は一日の残りの時間を、探偵小説と共に、寝床の中で惜しみたがるのであろう。
 しかし、それだけでは、やはり何だかまだ説明が足りないよう
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