ま》いものでもない。その繊維は余りに固く、その味はあまりにも単一で古めかしい。本格探偵小説の真価は、もはや古典的なものになってしまっている。その謎々の使命も既に、古来の所謂、文芸から大衆の興味を奪い去った時に終ってしまっている。そのトリック、謎々の真価値は大英博物館にでも納めなければ光らなくなってしまっている。
だから云う。馬来《マライ》半島に残存している野鶏だけがホントウの鶏である。その他のブラマ、オーピングトン、アンダラシャン、ブリモースロック、ミルカ、コーチン、レグホンの類は鶏でない。水炊《みずたき》にもスキ焼にもチキンライスにもロースチキンにしてもいけない。同じ金網の中で同じ餌を遣ってはならぬ……という宣言に対して、羅馬《ローマ》法皇に対する新教徒のような萎縮や、絶望を新人諸君が感ずる必要は毛頭ない。
鶏の人類に対する真実の使命はその変種に在る。食用鶏は卵が少く、採卵用鶏は肉が美味《うま》くない。それでいいのだ。
同様に探偵小説の真の使命は、その変格に在る。謎々もトリックも、名探偵も名犯人も不必要なら捨ててよろしい。神秘、怪奇、冒険、変態心理、等々々の何でもよろしい。吾
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