探偵小説の真使命
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)曾《かつ》ての

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)その各文科|毎《ごと》に、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)従来の心理[#「心理」に傍点]描写は
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 探偵小説が下火になって来た。曾《かつ》ての勃興当時、作者と読者とが熱狂して薪を投じ油を注いだ炬火《たいまつ》は、今や冷めたい灰になりかかっている。
 曾ての自然主義文芸がそうであったように……。
 自由民権思想がそうであったように……。
 人類の趣味傾向が、かくして遂にドン底を突いてしまったのだ。
 明治維新以来、西洋文化の輸入に影響されて日本人の趣味が急劇に低下して来た。以前から忌避し軽蔑されていた肉慾描写や、不倫の世相が、自然主義の輸入以来逆照され初めた。人間が不合理視され、禽獣道が合理視されるようになった。それは、たしかに新しい傾向であった。
 ところが明治末期から大正以降に於ける探偵小説の流行は、そうした傾向を更に低級化し、深刻化した。モット尖鋭な肉慾や露骨な犯罪心理に深入りする趣味を
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