、日本人に逆照して見せた。そうしてその逆照手段が本格、変格のあらゆる角度に向って急速に分析され、分科され、単純化され、平凡化されていく中《うち》に、その各分科|毎《ごと》に専門的に行詰まり、飽きられ、軽視され、忘却されて行きつつある。

 探偵小説はだから、今やその最後の牙城に逃込みつつある。……曰《いわ》く……
 探偵小説の真価値は、そのトリックに在る。謎々の興味に懸《かか》っている。そうした興味によって読者を最後まで引っぱって行ってから、これに意外な解決と満足を与えるのが、探偵小説の唯一無上の神聖な本領である。だから、探偵小説は生命、貞操、金銭、宝石、紙片なぞいう人間の欲しがり騒ぎまわるところの最低級、浅劣なシロモノを、そのトリック、謎々の核心として、全篇の興味を織出して行かねばならぬ。
 だから探偵小説は芸術であってはならない。
 エロ、グロ、ノンセンス、ユウモア等の謎々以外の風味を含ませるのは探偵小説の邪道、堕落道である。冒険、神秘、怪奇、変態心理、等々々の名を冠らせ得る小説は、探偵小説界の外道、寄生虫でしか在り得ない。そんなものは皆、この真の探偵小説界の非常時に際して、変格の
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