写は平凡な心理[#「心理」に傍点]描写に過ぎなかった。だから将来の心理[#「心理」に傍点]描写こそは真実な心理[#「心理」に傍点]そのものの解析、綜合でなければならぬ。

 こうした趣味、傾向に人類を導くために、曾ての探偵小説は従来の芸術が金科玉条として死守して来た美学上の諸条件を悉《ことごと》く放棄し、一蹴した。その代りに芸術と自称するのも恥かしい浅劣、低級な謎々の魅力を以て大衆の注意を惹付《ひきつ》けた。そうして古来、人類が作って来た各種の文化の中でも、最も醜悪低劣なこの科学文明の内容を人々が反省し初めるに連れて、グングンと進化し分化し初めた。あらゆる変格的な新様式を繁殖さして、大衆の心理の隅々にまで喰込んで行った。鶏や、豚や、林檎や、ダリヤが、その純粋種から進化して、その時代時代の趣味文化を象徴し、代表しつつ、次第次第に複雑極端になって行ったように……。そうしてその純粋種の価値を人々に忘れさせて行ったように……。

 だから云う。純粋種は実に尊い、有難いものである。吾々は純粋種の味を時々回想してみる必要がある。
 しかし正直のところ今となっては純粋種はあまり美しいものでも美味《う
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