し勘太郎はもうすっかり飢え疲れて、眼が見えなくなって来ました。あっちへ行っては石に引っかかり、こっちへよろけては樹にぶっつかり、ヒョロヒョロして行くうちに、とうとうどこだかわからぬ処でバッタリ行きたおれてしまいました。
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小さな虫を救うても
救うた生命《いのち》は只一つ
象の生命《いのち》を助けても
助けた生命《いのち》は只一つ
虫でも象でも救われた
その有り難さは変らない
虫でも象でも同様に
助けた心の美しさ
人の生命《いのち》を助くるは
人の心を持った人
虫の生命《いのち》を助くるは
神の心を持った人
みんな仕えよ神様に
御礼申せよ神様に
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こんな歌がどこからともなく晴れやかに聞こえて来ましたので、勘太郎は不思議に思って眼を開きますと、自分はいつの間にか見事な寝台《ねだい》の上に寝かされて、傍《かたわら》には大勢の美しい天女が寄ってたかって介抱しています。勘太郎は又夢を見ているなと思って眼を閉じようとしますと、不図自分の枕元にこの間夢で見たお姫様がニッコリ笑って立っているのに気が付きました。
勘太郎は驚いてはね起きますと、どう
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