虫の生命
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)独身者《ひとりもの》で、
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)炭焼|竈《がま》の前に立って
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
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炭焼きの勘太郎は妻も子も無い独身者《ひとりもの》で、毎日毎日奥山で炭焼|竈《がま》の前に立って煙の立つのを眺めては、淋しいなあと思っておりました。
今年も勘太郎は炭焼竈に楢の木や樫の木を一パイ詰めて、火を点《つ》けるばかりにして正月を迎えましたが、丁度二日の朝の初夢に不思議な夢を見ました。
勘太郎は睡っているうちに、どこからともなく悲しい小さい声で歌う唱い声が聞こえて来ました。
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街には人の冬ごもり
明るい楽しい美しい
樹々には虫の冬ごもり
暗い悲しいたよりない
冬の夜すがら鳴る風や
降る雪霜のしみじみと
たよりに思う樫の樹は
伐《き》りたおされて枯らされて
炭焼竈に入れられて
明日は深山に立つけぶり
その樫の樹ともろ共に
灰か煙りかかた炭か
あとかたもなく消えて行く
悲し
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