、勘太郎はもう炭焼きなんぞはする気になりませんでした。しかし生れて炭焼きしかした事のない勘太郎は他の仕事を一つも知りませんでした。何をしようかといろいろ考えて帰るうちに道を見失って、だんだん山深く迷い入ってしまいました。
行っても行っても山ばかりで、食べ物も何もありません。日が暮れ夜が明けても同じ事です。しまいには飢え凍えて死にそうになりましたから、勘太郎は草の根を掘って食べたり、枯れ葉を綴って身体《からだ》に着たりして、仙人のようになって、自分の家《うち》の在る方へと山又山を越えて行きました。
雪に降られ雨風に打たれて、木の皮や草の根を食べながら行く苦しさはたとえようもありません。これというのも、たった虫一匹の生命《いのち》を助けたため、その虫を助けたのは初夢を本当にしたためと思えば、勘太郎は口惜《くや》しいやら情ないやら涙をポロポロコボして行きました。
その中《うち》に春が来たらしく、雪も降らず風もあたたかくなって、勘太郎が行く山道を横切る雪も白くふわふわとして来ました。あたたかい太陽の下の木々には芽が萌《も》え出し、楽しげな鳥の声が方々から聞こえるようになりました。
しか
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