かけられるような事を書くと、前にも述べたような理由で読者は何となく欺《あざ》むかれたような不満を感ずる虞《おそれ》があるのだからそのヤヤコシイ事一通りでない。

 第二の条件は、その人物の風采が苗字だけ、もしくは名前だけでもスラリと眼に浮ぶような名前を附けなければ損である。もちろんそのうらを行って現実性を強める方法もないではないが、普通の場合、岩山銅蔵という美少年だの、青柳美代吉なんという醜怪な兇漢なぞは落第である。トラ子と花子と二人並べたら花子の方が美人にきまっているし、松子と清子なら清子の方が病身にきまっている。大山壮太郎が小男で、小川一平が雲突く大男と書いたら読者はちょっと首をひねるであろう。

 第三の条件は読者に記憶され易いことである。これは特にむずかしい条件であるが、創作人物の名前を選むについては第一の条件と共に最重要な考慮を払わなければならぬ問題である。
 ……といっても理屈は別にむずかしい事ではない。
 早い話が田中とか、山本とか、林、中村、又は長兵衛、芳夫、太郎、次郎、三郎といったようなアリフレた名前をヤタラに組合わせて並べて行くと、読者はキット途中で作中の人物を混線
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