創作人物の名前について
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)端役《はやく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#天から3字下げ]
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 これは探偵小説に限らない。小説を書く人は誰でも経験するところであろう。
 如何なる作家の場合でも小説の中の主人公や相手役、端役《はやく》の人物が決定するのと、その人物の名前が決定するのは殆んど同時ではあるまいかと思う。
 AともBとも名前をきめないで書いて行く事は、ちょっと不可能のように考えられるし、単に名前だけきめて、性格や年齢、身分までをハッキリさせないまま行き当りバッタリに筋を運ぶのは、少々乱暴であり、危険ではないかと考えられるので、些《すくな》くとも私などには到底出来ない芸当である。
 ところでその名前の選み方であるが、これがナカナカ容易でない。性来カンの悪い私などはこの名前の選定について特別に悩まされるので、何の苦もない名前を付けているらしい他人の創作なぞを読んでいる中《うち》に、つくづく自分の無器用さに愛想を尽かす事さえある。

 仰向けに引っくり返って太平楽を並べてい
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