で喋舌《しゃべ》り出した。
「ヤア。御苦労御苦労。どうだったね。結果は……」
人相の悪い紳士は苦笑いと一緒に頭を下げた。中禿《なかはげ》の額の汗を拭き拭き椅子に腰をかけた序《ついで》に支那人風の巨漢《おおおとこ》に顔をさし寄せて声を潜めた。
「満洲に這入ると直ぐに憲兵司令に命じまして、彼奴《きゃつ》を国境脱出者と見做して手酷《てきび》しく責めてみましたが、弱々しい爺《じじい》の癖にナカナカ泥を吐きません」
「旅券を持っていなかったのか」
「持っておりましたが私がその前に掏《す》り取っておいたのです。古い手ですが……旅券は完全なもので、東京××大使館|雇員《やとい》を任命されて新《あらた》に赴任する形式になっております。ここに持っておりますが」
「買収してみたかい」
「テンデ応じませんし、ホントウに何も知らないらしいのです。仕方がありませんから××領事へ紹介して旅券の再交付をして立たせましたが、チットも怪しむべき点はありません」
「そんな事だろうと思った。大抵の奴なら君の手にかかれば一も二もない筈だがね」
「それがホントウに何も知らないらしいのです。ただタイプライターが上手で、日本文字
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