に精通しているというだけの爺《じじい》としか見えませんから、仕方なしに××領事の了解を経てコチラへ立たせた訳ですが、しかし、どう考えても怪しい気がしてなりませんので取敢えず閣下に彼奴《きゃつ》の写真《スナップ》をお送りしておいて、ここまでアトを跟《つ》けて来た訳ですが……」
「ウム。君の着眼は間違いない。彼奴《きゃつ》は密使に相違ないと僕も思う。この頃、欧洲の時局が緊張して、露独の国境が険悪になったので、露国は満蒙、新疆《しんきょう》方面にばかり力を入れる訳に行かぬ。じゃから遠からず東亜の武力工作をやめて、赤化宣伝工作に移るに違いないのじゃ。露国が一番恐れているのは日本の武力でもなければ、科学文化の力でもない。日本人の民族的に底強い素質じゃ。三千年来その良心として死守し、伝統して来た忠君愛国の信念じゃからのう。コイツを赤化してしまえば、東洋諸国は全部|露西亜《ロシア》のものと彼等は確信しているのじゃからのう」
「成る程」
「その赤化宣伝工作に関する重大なメッセージか何かを、彼奴《きゃつ》がどこかに隠して持って来ているに違いないのじゃが……」
「昏睡させておいて鞄《かばん》は勿論|彼奴《
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