と歩いて行くのを見送ると、直ぐに公衆電報取扱所へ走り寄って、前から準備して書いていたらしい電報を一通打った。
「レコード」シモノセキツク」フジニノル」
打電先は東京銀座尾張町×丁目×番地、コンドル・レコード商会古川某であった。
打ってしまうと朝鮮紳士は自分の背後《うしろ》に順番を待っているらしいデップリした、色の黒い、人相の悪い中年の紳士を振り返ってジロリと睨み付けた……が……しかしその人相の悪い紳士は見向きもせずに、自分の電報を窓口に置いて切手を嘗《な》めてトントンと叩き付けて差出した。そうして係員が受取るのを、やはり見向きもせずに駅を出て、程近い駅前の山陽ホテルにサッサと這入《はい》って行った。
山陽ホテルの駅前街路を見晴らす豪華な一室に、立派な緞子《どんす》の支那服を着た、鬚髯《ひげ》と眉毛の長い巨漢《おおおとこ》が坐っていた。白々と肥満した恰好から、切れ目の長い一重瞼《ひとえまぶた》まで縦から見ても横から見ても支那人としか思えなかったが、その前にツカツカと近づいた今の人相の悪い紳士が恭《うやうや》しく一礼すると、その支那人風の巨漢《おおおとこ》は鮮やかなドッシリした日本語
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