な気味の悪い感じをあらわしていた。
 それから少年ボーイは枕元の豆電燈の球《たま》を抜いて、代りに白い六角の角砂糖ぐらいの小さなマイクロフォンを捻じ込んだ。そのまま二人は真暗になった車室のクッションに腰を卸して耳を澄ましていた。
 列車の速力がダンダン緩《ゆる》くなって来て、蒼白いのや黄色いのや、色々の光線が窓|硝子《ガラス》を匐《は》い辷《すべ》った。やがて窓の外を大きな声が、
「小郡イ――イ。オゴオリイ――イ」
 と怒鳴って行った。
 青年ボーイが身動きしないまま傍《そば》の少年ボーイに囁いた。
「今のも録音機のフイルムに感じたろうか」
「感じてます。器械を列車の蓄電池と繋ぎ合わせて開《あ》け放していますから……まだ五十分ぐらいはフイルムが持ちますよ。今の貴方《あなた》の声だって這入ってますよ」
「フフフ……」
 二人は又、沈黙に陥った。青年ボーイは所在なさに紙巻を啣《くわ》えて火を点《つ》けた。
 少年ボーイが闇の中で手を出した。
「僕にも一本下さいな」
「馬鹿。フイルムに感じちゃうぞ」
「構いませんから下さい」
「手前《てめえ》。持ってるじゃないか」
「バットなら持ってます。貴
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