方《あなた》のは露西亜《ロシア》巻でしょう」
「よく知ってるな。ハハア。匂いでわかったナ」
「イイエ。見てたんです。さっき注射なすった時にあの爺《じじい》のパジャマのポケットから……」
「シッ。フフフ……」
突然列車が烈しくガタガタと揺れた。小郡駅構内の上り線ポイントを通過したのだ。車室の中が又真暗くシインとなってしまった。
すると突然に列車の動揺にユスリ出されたような奇妙な声が、寝台の中から起って来た。それはカスレた金属性の、低い、老人の声で、しかもハッキリした日本語であった。夢のようにユックリと落付いた口調であった。
「日本の………、……、……、……、…………………諸君よ……諸君、民衆の民族的……のために……せよ……諸君……日本の…………が……土地……に目ざめ、成長する事を……のである」
「わかるかい」
と青年ボーイの声……。
「わかります。ソビエットの宣伝でしょう」
と少年ボーイの緊張に震えた声……。
「片山潜《かたやません》の口調だよ。これあ……」
「エッ片山潜……」
「そうだ。日本で××××運動をやって露西亜《ロシア》へ逃込んだ今年七十か八十ぐらいの老闘士だ。今東洋
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