た。それは和服にも着せられる、鐘型《つりがねがた》の風変りなもので、その深紅の色が何ともいえず上品に見えた。
母親は早速それをチエ子に着せて、自分も貴婦人みたようにケバケバしく着飾って、四谷へ活動を見に連れて行った。母親は、どちらかといえば痩せギスで、背丈けが普通《なみ》の女以上にスラリとしているので、チエ子の手を引いて行くのはいくらか自烈度《じれった》いらしかったが、それでも、二人とも新しいフェルトの草履《ぞうり》を穿《は》いて、イソイソとしていたので、誰が見てもホントウの親子に見えた。
二
活動が済むころから、風がヒュウヒュウ吹き出したので、かなり寒い、星だらけの夜になった。
その中を二人は手を引き合って帰って来たが、嫩葉《わかば》女学校の横の人通りの絶えた狭い通りへ這入《はい》ると、チエ子が不意に立ち止まって母親を引き止めた。そうして、いつもよりもずっとハッキリした声を、建物と建物の間のくら暗《やみ》に反響さした。
「……おかあさん……」
母親はビックリしたようにふり返った。
「何ですか……チエ子さん……」
「あそこに……お父さまのお顔があってよ」
と
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