人の顔
夢野久作
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)奇妙な児《こ》であった。
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一粒|宛《ずつ》殖《ふ》やしたので、
−−
一
チエ子は奇妙な児《こ》であった。
孤児院に居るうちは、ただむやみと可愛いらしい、あどけない一方の児であったが、五ツの年の春に、麹町《こうじまち》の番町に住んでいる、或る船の機関長の家庭《うち》に貰《もら》われて来てから一年ばかり経つと、何となく、あたりまえの児と違って来た。
背丈けがあまり伸びない上に、子供のもちまえの頬の赤味が、いつからともなく消えうせて、透きとおるほど色が白くなるにつれて、フタカイ瞼《まぶた》の眼ばかりが大きく大きくなって行った。それと一緒に口数が少くなって、ちょっと見ると唖児《おし》ではないかと思われるほど、静かな児になった。そうして時たま口を利く時には、その大きな眼を一パイに見開いて、マジマジと相手の顔を見る。それから、その小さな下唇を、いく度もいく度も吸い込んだり出したりしているうちに、不意に、ハッキリした言葉つきで、飛んでもないマ
次へ
全14ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング