セた事を云い出したりするのであったが、それが又チエ子を、たまらない程イジラシイ悧溌《りはつ》な児に見せたので、両親は大自慢で可愛がるのであった。チエ子が一番わるい癖の朝寝坊でも、叱るどころでなく、かえって手数のかからない児だと云って、自慢の一ツにする位であった。
 しかしチエ子にはもう一ツ奇妙な……しかしあまり人の目につかない特徴があった。それは何の影もない大空と屋根との境い目だの、木の幹の一部分だの、室《へや》の隅ッコだのを、ジイッと、いつまでもいつまでも見つめる癖で、すぐ近くから呼ばれているのに気がつかないで、空のまん中に浮いている雲だの、汚れた白壁の途中だのを一心に見上げていたりするのであった。
 母親はこの癖に気付いているにはいたが、温柔《おとな》しい児にはあり勝ちのことなので、さほど気にかけていなかった。いくら呼んでも来ない時に、
「チエ子さん……何を見ているのです……」
 なぞと叱ることもあったが、本当に何を見ているのか、きいてみた事は一度もなかった。
 ところが、チエ子が六ツになった年の秋の末のこと、外国航路についている父親から、真赤な鳥の羽根の外套《がいとう》を送って来
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