一咳した。
「……馬鹿……誰が休めと云うたか……銃殺するぞ。馬鹿者|奴《め》がッ。……気を付け……」
死骸の山を背景にして、蒼白な月光に正面した負傷兵の一列の顔はドレもコレも生きた色を失っていた。死人よりも力ない……幽霊よりもタヨリない表情であった。その生きた死相の行列は、一生涯、私の網膜にコビリ付いて離れないであろう。
「……汝等は……何故に普通の負傷兵から区別されて、ここに整列させられているか、自分で知っているか」
軍医大佐の言葉が終らぬ中《うち》に又も二三人、気が遠くなったらしい。ドタリドタリと棒倒しに引っくり返った。ヤット自分達の立場が彼等にわかったらしい。
ツルツルと一筋、つめたい汗の玉が背筋を走ったと思うと、私も眼の前の光景が、二三十|基《キロ》も遠方の出来事のように思えて来た。
倒れた仲間を振返って見る者は愚か、身動きする者すらいなかった。皆、蒼白い月の光の中に氷結したようにシインと並んで立っていた。……その時の彼等がドンナ気持で立っていたか、私には想像出来なかった。ただボンヤリと飾氷《かざりごおり》の中の花束の行列を聯想させられていただけであった。死んだまま立っ
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