ている人間の行列……死刑を宣告されかけている自傷兵の一小隊……。
「わからなければモウ一つ質問する」
 軍医大佐は一歩前進して自分の背後を指した。
「眼を開いて汝等の正面を見よ。あの物凄い銃砲の音と、火薬の渦巻を見よ。あれが見えるか。あれは一体、何事であるか……わかるか……」
「……………」
 誰も返事をしなかった。返事の代りに又も二三人バタリバタリと引っくり返っただけであった。
「……よろしい……それから……廻れエ、右ッ……」
 皆、器械のように決然と廻転した。序《ついで》にブッ倒れた者もいたくらい元気よく……。
「よしッ。汝等の背後に山積して在る汝等の同胞の死骸を見よ……これはイッタイ何事であるか汝等の同胞は何のためにコンナ悲壮な運命を甘受しているのか……わかるか……」
 思い出したように頸低《うなだ》れた者が四五人。軍服の袖を顔に当ててススリ泣《なき》を初めた者が二三人……。
 光弾が……仏軍のマグネシューム光がタラタラと白い首筋の一列を照して直ぐに消えた。
「……よろしい。廻れエ、右ッ……整頓……。わからなければ今一つ尋ねる。ええか。……イッタイ吾々軍医なるものは何のために戦場
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