肩から離れて、よろぼいよろぼい歩き出していた。しかも驚くべき事には、その少年の一歩一歩には今までと見違える程の底強い力が籠っていた。それは私の気のせいばかりではなかった。真実に心の底からスッカリ安心して、勇気づけられている歩きぶりであった。少年らしい凜々《りり》しい決心が全身に輝き溢れていて、その頬にも、肩にも苦痛の痕跡さえ残っていなかった。その見えない二つの瞳には、戦場に向って行く男の児《こ》特有の勇しい希望さえ燃え輝いていた。
 私は神様に命ぜられたような崇高な感じに打たれつつ蹌踉《そうろう》として一候補生に追い附いた。無言で肩を貸してやって、又も近付いて来る砲弾の穴を迂廻させてやった。

       三

 やがて二|基米《キロメートル》も来たと思う頃、半月の真下に見えていた村落の廃墟らしい処に辿り付いた。
 その僅かに二三尺から、四五尺の高さに残っているコンクリートや煉瓦塀の断続の間に白と、黒と、灰色の斑紋《まだら》になった袋の山みたような物が、射的場の堤防ぐらいの高さに盛り上っていた。私はそれを工兵隊が残して行った大行李の荷物か、それとも糧秣の山積かと思っていたが、だんだん
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