接近するに連れて、その方向から強烈な、たまらない石油臭が流れて来たので、怪訝《おか》しいと思って、なおも接近しながらよくよく見ると、その袋の山みたようなものは皆、手足の生えた人間の死骸であった。白い斑《まだら》と見えたのは顔や、手足や、服の破れ目から露出した死人の皮膚で、それが何千あるか、何万あるか判然《わか》らない。私たちが今まで居た白樺の林から運び出されたものも在ったろうし、途中で死亡して直接にここに投棄《なげす》てられたものも在ったろう。石油の臭気は、そんな死体の山を一挙に焼き尽すつもりでブッかけて在ったものと考えられる。
青褪《あおざ》めた月の光りと、屍体の山と、たまらない石油の異臭……屍臭……。
もうスッカリ麻痺していた私の神経は、そんな物凄い光景を見ても、何とも感じなかったようであった。候補生を肩にかけたままグングンとその死骸の山の間に進み入った。ガチャリガチャリと鳴る軍医大佐の佩剣《はいけん》の音をアテにして……。
そこは戦前まで村の中央に在った学校の運動場らしかった。周囲に折れたり引裂かれたりしたポプラやユーカリの幹が白々と並んでいるのを見てもわかる。その並木の一
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