ないと訴えているようですが真実ですか」
その候補生は鼻の下と腮《あご》に、黄金色《きんいろ》の鬚が薄く、モジャモジャと生えかけている、女のような美少年であった。まだ兵卒の服を着ているところを見ると、戦線に出てから何か失策を仕出来《しでか》したために進級が遅れたものらしい。顔から胸が惨酷《むご》たらしい鼻血と泥にまみれて、両手と、ズボンの破れから露出した膝小僧の皮が痛々しく擦り破れていたが、それでも店頭の蝋人形ソックリの青い大きな瞳を一パイに見開いて、鋼鉄色の大空を凝視していた。一心に私等の言葉を聞いているらしい赤ん坊のような表情であった。
その横顔を見ている中《うち》に私は少なからず心が動いた。私は生れ付きコンナ醜い恰好に出来ているために女性に愛せられる見込みもなく、男性にはイツモ軽蔑され勝ちで通って来たために、いつの間にか一種の片輪根性みたような性格に陥って来たものであろう。こうした美しい、若い男を見ると、いつも、理屈なしに親しくしてみたい……親切に世話をして遣りたいような盲目的な衝動に駈られて仕様がないのであった。
「ハイ。この候補生は前進の途中、後方から味方の弾丸に腓《こむら
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