精励していようとは思わなかった。
そうしたワルデルゼイ大佐の精励ぶりを見ると同時に私は、私の良心が、私の肺腔一パイに涙ぐましく張り切って来るのを感じた。そうしてイヨイヨ一生懸命になって、追い立てられるように、次から次へと負傷者の手当を急いでいたものであったが、間もなく私の間近に接近して来たワルデルゼイ軍医大佐は、私がタッタ今、腓《こむら》を手当てしてやったばかりの将校候補生の繃帯を今一度解いて、念入りに検査し始めた。
それを見ると私は多少の不満を感じたものであった。
……それ以上の手当は現在の状態では不可能です……
という答弁を、腹の中で用意しながら、掌《てのひら》の血糊をゴシゴシと揉み落しているうちに、果せる哉《かな》、軍医大佐の電燈がパッと私の方へ向けられた。
「……や。クラデル君ですか。ちょっとこっちへ来て下さい」
そう云う軍医大佐の語気には明らかに多少の毒気が含まれていた。しかし私は勇敢に軍医大佐の側に突立って敬礼した。
ワルデルゼイ軍医大佐は砲弾の穴の半分埋まっている斜面に寝かされている、まだウラ若い候補生の身体《からだ》を電燈で指し示した。
「この小僧は眼が見え
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