をホンの一寸《ちょっと》たたいたと思ったら、バッチリと生あたたかい手錠をかけてしまった。……と……私の背後の縁側からT刑事と、モウ一人の新米らしい若い刑事が、待ち構えていたように曲り角から出て来て、私の背後に立ち塞《ふさ》がってしまった。
 私はその中でも見知り越しの二人の刑事の顔を、わざと不思議そうに見まわした。それから如何《いか》にも面目無い恰好《かっこう》でグッタリとうなだれる拍子《ひょうし》に、思わずヨロヨロとよろめいて横の壁にドシンと背中を寄せかけると、あとからT刑事がツカツカと近寄って来て、チョットお辞儀をするように私の顔を覗き込んだ。そうして私を憫《あわ》れむように……又は云い訳をするように、見え透いた空笑いをした。
「ハハハハハ。今の芝居に引っかかったね」
「…………」
「……相手が君だと滅多にボロを出す気づかいは無い。トテモ一筋縄では行くまいとは思ったが、チョット鎌《かま》をかけたら案外引っかかってくれたんで助かったよ。まあ諦めてくれ給え。決して悪くは計らわないからね……元来知らない仲じゃなし……ハハハハ……」
 そう云うT刑事の笑い声が終るか終らないかに、頭を下げて
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